Symphony on the radiO

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没ネタC

「・・・・アッシュ、アッシュ、やっとが目覚めた?」

体をゆすられる感覚に重い瞼を開くと、そこはさっきの湖だった。
空は赤く染まり、湖面も炎のように揺らめいている。
それは日没が近いことを告げていた。
アシュレイは寝ぼけ眼で長い時間が過ぎていることを感じると、ゆっくりと身を起こした。
何故か寝そべっていただけのはずなのに、全身が鍛錬の後みたいに痛い。
一際違和感を持っているのはこめかみ。
こんなところを筋肉痛になった覚えのないアシュレイは、必死に今までのことを振り返った。

「あれ・・・?僕・・・?」

たしか、ソフィアに連れられて森の奥の湿原を抜けて大きな樹の下で・・・・
何があったのだろう。と頓挫した思考にアシュレイは首をかしげた。
ソフィアに手を引かれて森の奥へ行ったことまでは覚えている。
しかしそれ以上がまったく思い出せない。
確か大きな樹があって、根元に剣が刺さってて・・・
ここまで来て、アシュレイは気がついた。
途中で曖昧になる記憶というものは大体夢の産物であると。
恐いことがあった日、貴族のおじさんにぶたれた日、ベッドの中に必ず出てくる怖い夢。
きっとそれもこの類であろうと、アシュレイは無理矢理に胸へ押し込んだ。
その反動か、突っかかっていたことを一つ思い出す。
そうだ、その後僕は大きな龍になってしまうんだ。
アシュレイの童心でさえも気がついた。
そんなことはありえない。
だから、再度夢だと思い込むことにした。

「突然倒れるんだから・・・心配させないでよ」

見ればソフィアが自分のシャツの胸の辺りをきつく握り締めていた。
大きなスカイブルーの瞳には涙をためている。
それを見ているとどうしようもなく申し訳ない気持ちがこみ上げた。
姫様にはやっぱり笑顔のほうが似合うから。

「あの・・・姫様・・・・ごめん」

「別にいいわよ。本当は森の奥の大きな樹の下で約束したかったんだけど・・・」

ぐずん、と鼻をすすってソフィアがためらいがちに答える。
森の奥?樹の下?

「あんたがいきなり倒れちゃうんだもの・・・仕方ないからここでいいわ」

ソフィアの言葉に出た『樹』という単語。
アシュレイは先ほどの夢が克明に蘇るのを感じた。
やっぱり、夢じゃ、ないのか・・・?

「あの姫様、僕たちはさっきまで何をしてたんだっけ?」

恐る恐る、聞いてみる。これでソフィアの口から自分が龍に変わってソフィアと誓いを交わしたといった内容が出てきたらさっきのことは夢ではない。
恐ろしい。
夢であったとしても恐ろしい。
自分が龍に変わって・・・

「ずっとこの水辺で遊んでたじゃない。森の奥に行こうとしたら突然あんたが倒れて・・・そんなだから訓練にもついていけないのよ。男の子なんだからしっかりしなさいよね!!そんなんじゃ、わ、わたしを、おおお、お嫁さんにできないんだから・・・」

ソフィアから帰ってきた返答は予想外のもの。
むしろ茹で上がってしまったような真っ赤な顔が目に付く。
アシュレイはひとまず安心した。さっきのことは夢だった。
そう確信できたからだ。

「よかった・・・」

ほっと胸をなでおろす。さっきの夢は相当な悪夢だ。
あのまま龍に化け続けていれば、目の前のソフィアをどうしてしまったかわからなかったから。
自分の意思とは無関係に発せられた低い声。母上に子守唄の代わりに聞いた古い言い伝え。
全部が真実のように体を突き動かし、ソフィアもなにかが乗り移ってしまったかのようだったから。
夢なら、それでいい。
自分は人質として、この国で責務を果たすだけなんだ。
アシュレイは胸の奥で今一度決意を確認した。

「な、何がよかったのよ。ちゃんとわたしの話を聞いてたの?」

アシュレイが顔を上げると、目の前には宝玉のように大きな瞳があった。
まるで神の祝福を受けたように美しい鼻筋と、可憐な唇。
こうして目の前にしてみると照れるものだ。
アシュレイは目のやり場に困ったように視線を地面にやった。

「ご、ごめん・・・」

「ふん・・・まぁいいわ。これからちゃんと約束してもらうんだから」

ソフィアは少し呆れたようにいうと、アシュレイの顎を掴んで無理矢理視線を自分に固定した。レイクブルーと、スカイブルーの瞳が交差する。
人形のように可憐な容姿からは想像もつかない天真爛漫な瞳。
歳不相応なほど自分の立場を達観した理知の瞳。
両者がお互いを映す鏡のように見つめあった。

「な、なに?・・・」

「聞えてなかったの?約束よ。ちゃんと誓いなさい」

“約束”“誓い”といった言葉が夢をフラッシュバックさせる。
でもここはあの大樹の元ではないし、自分が龍に化けたりもしない。
確かに感じるソフィアの息遣い、濡れたように潤んだ瞳が現実であると認識させてくれる。

「ソフィア=ローズレット=エレハイムはアシュレイ=アシュルード=ストラドリアを生涯の伴侶として認めます」

舌足らずな言葉で必死にお互いの名前を言う。
暫く目を瞑ってアシュレイの掌を一回りほど小さな自分のそれで握り締めると、顔を上げて彼を見つめた。
零れそうなほどに潤んだ瞳。夕焼けを映して赤く燃え上がる。
頬が染まっているのは山中に溶けていく球体の所為ではない。
浮かされたように熱く首筋を撫でる息も、初夏の仕業ではない。
ソフィアの瞳には、ただ一人、自分だけが映っていた。

アシュレイ=アシュルード=ストラドリア、その人だけが。

「・・・・・・」

夕焼けの演出を受けて思わずひれ伏したくなるほど美しいソフィアに、アシュレイは言葉を発さないまま視界に彼女だけを映していた。
半開きの口にはそっと彼女の可憐な唇が重ねられ、首筋には白魚のように細い指と、剣を振るっているとは思えないほど透き通った感触の腕が回される。
いったいどれくらいそうしていただろうか。
幼い約束を交わす二人に沈む夕日の傍観者。
虫の鳴き声一つない小さな水辺。

二人だけの世界が広がっている。

いつの間にか離れた唇を名残惜しそうに見つめるソフィア。
今度はアシュレイの瞳をじっと覗き込んでなにかを催促するように顔を動かした。

「・・・・ほら、あんたも誓いなさい・・・っていうか、こんなこと先に女の子に言わせるものじゃないわ」

自分で思い起こして照れてしまっているのか。
ソフィアは首筋耳の裏まで真っ赤にして言った。

「あ・・・ごめん・・・・でも・・・・」

誓う、というのはアシュレイも同じくソファを伴侶として認めろ。
ということであろう。
しかし二人の立場はあまりに違いすぎる。
一人は大国の王女、方や潰れかけの小国から送られてきた幼い人質。
少年の感情でこれを受け入れろというのがムリな話。
しかし、寂しそうに細められたソフィアの瞳を見ているうちに、理由のない勇気がわいてくるのを感じた。
夢で感じたのと同じ気持ち。
ソフィアと一緒にいて肩を並べていると泉のように湧き出してくる高揚感、胸を満たす希望。
ほんの一瞬、人質としてではない歳相応の心が蘇った。
アシュレイは珍しく自分の感情に流されて、確かにこういった。

「僕、アシュレイ=アシュルード=ストラドリアは・・・・ソフィア=ローズレット=エレハイムを・・・生涯の伴侶として認め、命が燃える限り、傍にいることを誓います」

アシュレイはソフィアの細い肩を掴むと、ずいと彼女を引き寄せて自分から口付けた。
甘い感触、指先をチリチリと焦がしている愛しさ。
すべてが、アシュレイを満たしていく。
遠い創世の因果にとらわれた二人。

しかしそんな古き盟約から外れた一つの約束が、誓いが・・・


――――――森の奥。
――――――小さな湖のほとり。


ここに産れた。


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  1. 2006/08/31(木) 20:04:17|
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没ネタB

「はぁ、はぁ、まだつかないの?」

数十分は同じ風景が続いているだろうか、低い蛙の鳴き声と、なにかが飛び出してきそうな木立。

「あと少しよ。きっとびっくりするんだから」

時折振り返りながら笑うソフィアを見ていると、胸に勇気がわいてくる。
きっと、平気だ。
そんな風に思いながら、アシュレイも少しペースを上げた。

そのまま一心に歩を進めていると、アシュレイはソフィアと肩を並べていた。
一方的に掴まれた腕は、いつしか指同士をがっちりと絡めて握り合い、引っ張られていたアシュレイは自主的にソフィアの隣に並んでいた。
ふと目が合うと、ソフィアは恥ずかしそうに視線を反らす。
そしてやや裏返る声で、照れ隠しのように言った。

「わ、わたしの隣に並ぶんだから、あんたも強くなりなさいよ」

これは訓練のことを言っているのだろうか。
王として軍を索引する運命にあるソフィアは、少女の身でありながらも大人の騎士と同等の訓練を受けていた。そして時にその才は中央騎士団のエリートをうならせるほどだ。
反面あまり剣に才がないアシュレイは無理矢理訓練に参加させられていても、あまりその空気に馴染むことができなかった。
実際彼は軍略や政治学などの勉学に才能を発揮する性質であった。

「キミは大人の騎士さんより強いじゃないか・・・僕なんかじゃムリだよ・・・」

「じゃあ必死で努力なさい!!そんなんじゃ、わ、わたしをおお、お嫁さんにできないんだから・・・」

真っ赤になって俯いてしまったソフィア。
彼女のペースが一気に上がる。

「お、お嫁さん?そんなのムリだよ!!だって僕たちは・・・」

「バカ!!それ以上は言わないの!!」

いったん止まってアシュレイの口に指を突っ込んだソフィアは、熟れた果実のような顔をしたまま突然猛スピードで走り出した。

「ちょ、ちょっと待ってよ!!」

「やだ、待たない!!悔しかったらちゃんとわたしについてきなさい!!じゃないと、お仕置きなんだから!!」

「ま、待ってよ!!わかったよ!ちゃんと剣の訓練もするから!!」

そのまま走り去ろうとしたソフィアの背中に追いすがるようにアシュレイは言った。
すると、そのまま地の果てまでも走り去ってしまいそうだったソフィアが突然足を止めた。

「・・・ふぅ」

小さな背中を向けたまま立ち止まったソフィアに、アシュレイは深い息をついた。
あのまま逃げられたら自分の足で追いつくことは不可能だったからである。

「約束して」

振り返るソフィアの顔は、真剣だった。

「あ・・・うん・・・・」

その神々しさと、眩しさに思わずアシュレイは間抜けた声を上げていた。

「ついたわ」

ソフィアが短く言うと、あたりを覆っていた湿気と、昼なのに視界を遮って鬱陶しい霧が一瞬にして晴れた。
天が割れたように差し込む光。
気づけば、アシュレイはどこまでも広がる丘の上に立っていた。
いきなり聳え立ったのは新緑の巨木。見たこともない樹。
そもそも、森にこんなものが立っていたら誰かが気づくはず。
それなのにびっくり箱から飛び出したように目の前に巨木がある。
樹齢数百年、ひょっとしたら数千年はくだらないであろう大樹。
絡まりあう蔦に、びっしりと表面を覆う苔。
突然現れた天辺が見渡せないほどに悠然と聳え立つそれに、アシュレイは思わず息を呑んでいた。
幾千幾万にも枝分かれし、先端は雲に吸い込まれている。
大地すべてを網羅しているような根元は、直径だけで大人数十人が手を広げても届かないほど。
中空では見たこともない赤い鳥と、不気味にうなる梟がじゃれている。

息づいている。
ありとあらゆる生命が。
住んでいる。
数え切れないほどの生命が。
感じる。
あふれ出るすべての生命を。

すべての連鎖が、この空間だけで成り立っていた。

「・・・すごい・・・」

魂を喰われてしまったかのようにたたずんでいたアシュレイが、ようやく口を開いた。

「アッシュ・・・約束よ・・・・」

食い入るように樹を見つめていたアシュレイは、ソフィアの言葉に我を取り戻した。

「え?」

「約束。この樹と、剣と、わたしに誓って」

ソフィアは真剣な面持ちで、巨木の麓に向かって歩き出した。
そして、根元に深く抱かれるように突き刺さった一振りの剣に手を触れる。

「その剣は?・・・」

白銀の刀身に、絡まりあう蔦をイメージして掘り込まれた文様。
柄に埋まっているのは、闇を照らす光を思い起こさせる宝玉。
武器庫でも、宝物庫でも見たことのない意匠の剣がソフィアの手に握られていた。

「この間文献で見たの。ここは、大地が生まれた場所。女神がこの星に降り立って、最初にたどり着いた場所。
そして、どこまでも流れていく生命に栓をしたの。これが全部の命を支配している聖剣」

ソフィアは取り憑かれたように喋ると、赤い革が巻かれた柄に手をかけた。

「この聖剣に認められば、この世のすべての命を掌握できるの。
でも、わたしには抜けない。聖剣はわたしを選ばなかった」

語り続けるソフィアの剣幕に動揺を隠せないでいるアシュレイだが、聖剣、女神、という単語を聞いているうちに一つの伝承を思い出した。

――――――白い日、すべてに終わりが訪れる。

――――――黒い日、すべてが始まる。

――――――赤い日、すべてに命がやどる。

――――――灰の日、龍と担い手が全部を手に入れる。

確か、自分の国に伝わる女神の祝詞の一説だった。
幼いころに母が寝付けない自分に囁いてくれた。
そうすると、何故か全身に力が漲るような気がしたのだ。
それを、今思い出した。

「わたしのご先祖様は、聖剣に選ばれた存在なの。女神様に言われてこの大地を治める存在になった。
でも、遠い昔に聖剣の力は失われてしまったの。旧い約束が、破られたから。
この大地を治める代わりに、自分を戒める鎖を引きちぎってしまったから」

あ、熱い・・・からだが、熱い。
今日の姫様は、どっか変だ・・・
湖にいたときから、落ち着かなかったし・・・

どくん、どくん・・・
熱く脈打つ鼓動に、母が聞かせてくれた言葉がシンクロしてアシュレイを蝕んでいく。

――――――汝を縛る鎖。

――――――聖剣を治める鞘。

――――――主を背に舞う龍。

「ご先祖様は、この大地をパートナーの龍と一緒に任された。でも、龍は途中で死んでしまった。
いえ、ご先祖様が龍を殺してしまったの。この大地は、自分だけのもの、って。
すぐに世の中は荒んだわ。水は枯れ、大地は死に、空は焼けた。
だから、ご先祖様は龍を鎮めるために世界を半分に分けたのよ」

――――――世界の片割れ。

――――――それを我が半身に宿さん。

――――――その誓い、破られることなく後世へ繋げ。

――――――盟約破られしとき、再び地は闇に堕ちる。

――――――我が半身である君に、龍の加護あれ。

「それが、古い約束。あなたと、わたしの国の。あなたの国は、龍の末裔なの。
そして、わたしは聖剣の担い手の血を引いている。二つの国は、ずっと手を取り合うべきだったの。
そうすれば世界は光で溢れる。みんなに笑顔が、みんなに幸福が・・・女神様はそういう風にこの大地を作ったの。
でも、その約束を・・・お父様が破った。あなたの国を半分属国にして、契約を血に染めた。
その代償に、お母様が死んだわ。大きななにかに引き裂かれて、ボロボロになって。
代価は世界も払ったわ。帝国が台頭して、大陸の覇権に興味がなかった小さな国まで動き出した」

――――――龍ここに目覚める。

――――――龍ここに降り立つ。

――――――龍裁きを与えん。

――――――旧き契約を赤に染めし。

――――――愚者に五つの災厄を。

――――――血を貰おう、幾億、幾兆の。

――――――更に魂を捧げよ、この大地の生命と引き換えに。



そして目覚めよ、我が血を引きし者。
目前の裏切り者を、女神を裏切った背信者に・・・
八つの死を・・・

どくん・・・

アシュレイの目の前が真っ赤に染まった。

「ああああああああああああああああああああああああ!!!」

頭に響く言葉が一際大きく共鳴すると、アシュレイは小さな頭と灰色の髪を抱えながら狂ったように叫んだ。
喉が焼けるほど、骨がきしむほど、肉が裂けるほど、その身を震わせて。

「あなたは、龍。わたしは剣。約束して。またこの世界に平穏を」

「うわああああああああああああああああああああああ!!!」

アシュレイの白い肌に、緑の鱗が浮かび上がる。
浮かび上がるというよりも、生えてくるといった表現のほうが相応しいだろうか。
きめの細かい皮膚の一変一変が硬く変容していく。
小さな丸い爪がナイフのように尖り、赤い血管が凶器の燃料を満たすように広がっていく。
華奢な背中を漆黒の翼が突き破り、細い骨格をまがまがしいほどゆがめていった。

目前で広がる非現実的に光景にも、ソフィアはひるまなかった。
ぼんやりと光を失った瞳と、半開きになった口はうわ言のように定められた言葉を紡いでいく。

「赦して、赦して、愚かな破綻者を、救いを、救いを、混迷の大地に、救いを」

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!」

鋼のような鱗がアシュレイの全身を覆い尽くすと、もはや細い少年の面影は消え去っていた。
マグマのように熱い血液を流して脈打つ太い血管。
銀の吹き溜まりになったレイクブルーはどこまでも凶暴。
アッシュブロンドの髪を割って太い幹のような角は不気味に天を突く。
そして、やや上向きのすっきりと通った鼻立ちは伝説の龍、そのものに転じていた。

「アッシュ、約束。あなたは、わたしで、わたしは、あなた。絶対に引き裂かれてはならない。
絆なの。引き裂かれた遠い約束に、新たな誓いを・・・!!」

「・・・」

「アッシュ、わたしの言うことが聞けないの?わたしと聖剣に誓って!!また世界に平和を!!」

「・・・・・・・!!!!」

巨大な緑の龍へと姿を変えたアシュレイは、まるで彫像のように動かなかった。
息遣いそのものが大地を揺るがしているように深く、ソフィアの小さな体を射抜く銀色の視線は矢のように鋭い。
そして、一つ大きく咆哮した。

「赦せん!!!!!!赦せん!!!!!!大地を赤に染めしものよ!!!汝の祖先は一度契約を破り捨てた。しかし我は女神の慈悲の下に機会を与えた。だが再びその盟約は破られたのだ。我が血脈を貶めることによって、二度目の契約を再び朱に堕した!!!」

龍に変じたアシュレイの喉から発せられる声は、どこまでも低い。
すべての怨嗟を一身に受けて燃え盛る火焔のように熱く、くすぶる煙のように黒かった。

「だが女神は慈悲深きお方。もう一度だけ機会を与えよう。この者に危機訪れしとき、汝は必ず手を差し出せ。そして、我が血脈を護りぬけ。さすれば、再び世に平穏が訪れよう・・・」

龍は最後に大きく吼えると、まばゆい光に包まれて消滅した。
緑の加護に覆われ、成長した樹木がゆっくりと種子に帰するようにアシュレイの形を取り戻していく。
ぎちぎちとうなる大木の声が止むと一面に広がる草木の上には、一人の少年が生まれた姿のままで横たわっていた。

ソフィアも聖剣の柄から手を離すと、糸が切れたように倒れた。

舞台は引けた。
ゆっくりと風景が歪むように、もとの穏やかさを取り戻す。
二人を見届ける巨木も、根元に刺さった聖剣も、なかったかのよう色褪せていく。

再び大きく空間が軋むと、割れた表面が剥げ落ちるように二人は見慣れた湖畔に倒れていた。

遠い約束の、かけら。

今日、再び交わされた。


  1. 2006/08/31(木) 20:03:31|
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没ネタA

「アッシュ、アッシュなんてどう?」

晴れ渡る青空。
それをそのまま映したような瞳を持つ少女が、同じく透き通る湖面を見つめながら元気に叫んだ。
可憐な目鼻立ち。陽光をキラキラと反射しているプラチナブロンドは人目で少女の育ちのよさと、隠せないほど湧き上がる高貴なオーラを引き立てている。

「あんたの髪の色からとったの。いい響きでしょ?」

満面の笑顔で、少女が続ける。
空の蒼を丸ごと吸い込んでしまったかのような鮮やかさ。
その視線の先、少女は嬉々として問いかけた。
太陽のような輝きの傍ら、そこには月のようにしっとりとたたずむ少年がいた。
注視しなくては女の子と見紛う程の秀麗な顔立ちに、光の角度によって表情を変える灰色の髪。幼いながらも精悍な面立ちと、困ったように下がる眉はその外見に不相応なほどに大人びている。

「僕にはアシュレイっていう名前があるんだけどなぁ・・・」

少年は暫く思案するように頬を掻いて、少女と目を合わせる。
ふと少年の瞳に理知の光が走った。
そして、諦めたように苦笑する。
少女の輝く瞳を見て一瞬にして空気を読む能力。
大人でも備えることの少ない能力が、少年の雰囲気をより洗練させていた。
じゃれあう仔猫を思わせる少女の快活さ。
それを受け止めるのは眼前に広がる湖面のように深い眼差しだった。

「どうなの。きにいったの?せっかくわたしがつけたんだからまさか気に入らないなんて言わないよね?」

徐々に角度を増していく形のいい眉に、少年はなだめるようにして言った。

「アッシュ、アッシュか~いい名前だね。さすが姫様だね」

「“アシュレイ”なんて堅苦しいでしょ?だからお互い気軽に呼べる名前が必要なの」

アシュレイ=アシュルード=ストラドリア。
それが少年の真名だった。
アシュレイが感心したように微笑むと、少女は向日葵のような笑顔で迎えた。
咲き誇る大輪の形容がよく似合う笑顔。澄み渡る瞳と、無邪気さ。
初夏の深い緑の香りと、水辺の瑞々しい空気。
見上げる空は、どこまでも青い。

「でも姫様、さすがに城内でその名前で呼ぶのはまずいよ・・・侍女や貴族の人たちに見られたら・・・」

「別に関係ない。あんたはわたしの友達なんだから!!友達同士は特別な名前で呼び合うってキャルも言ってたわ」

少女は決意したように叫ぶと、パタパタと小柄な体で少年に走り寄った。
似通った背格好。外見も髪型を除けば兄妹にも見えなくない。
陽光を照り返して幻想的なほどに美しい湖畔。
ぽっかりと森をくりぬいたこの場所に香る緑。
絵本の一場面のように完成された風景。
しかし、澄み渡る青空を受け止めているアシュレイの瞳には含みがある。

「姫様・・・僕と姫様は・・・」

「わたしとあんたは、何?・・・」

言い淀む少年。やはりその表情は深い。
レイクブルーの瞳を長い睫毛に伏せ、年頃の少女なら誰もが羨むほど形の整った唇をきつく結んでいる。
アシュレイの出身、ストラドリアとは大陸でも風前の灯と言われる小国だった。
女神が作り給うたこの大地。その祝福を受けた二王の血筋を引く由緒正しき国家でありながら、長く続く不作や戦、始祖以降指導者に恵まれなかったためか財政状況や勢力は隣国からの圧力にも対抗できないほど窮乏していた。
だが、なぜそんな伝統はあれど国力に乏しい国が未だに存続しているかといえば、それは古くからの姉妹国であり、ちょうどストラドリアの正面に位置する大国エレハイムのお陰であろう。
ストラドリアの数十倍の国土を誇り、最新の戦略、兵器、豊穣な土地に恵まれたエレハイムは大陸東方に位置する神聖帝国ラメリアとほぼ同等の勢力を持っている。
旧く聖剣が降りた土地として有名な首都エルルを中心に帝国に次ぐ軍事国家として大陸に名を轟かせている。
ストラドリアはいにしえの盟約と、女神の定めたパートナーであるエレハイムに庇護されながらも何とか成り立っているのだ。
しかし、そんな両国の関係も三十年前のエレハイム前王の死を境に変化した。
どちらかといえば義で国を治めていた先王に較べると、現エレハイム王ラメセスは武を以ってそうする人間である。僅か数年のうちにエレハイムに対して害意を持つ国を一掃し、十年にして大陸最強の軍備を作り上げた。
工業で大陸一を誇る帝国をあっという間に追い抜き、類まれなる指揮者としての才能を発揮したラメセスは、終に姉妹国であるストラドリアもその支配下に置いた。
世界が荒れたのはそのときからだった。帝国といえど勢力争いにそれほど関心がなかったラメリアは、狂ったように隣国へ侵攻を開始し、覇権争奪戦にあふれていた小さな国々までもが一様に大陸を戦火に染め上げた。

毎日小さな命が生まれ、大きな命が潰えていく。
女神が作った大地は、止まらない死の連鎖にとらわれていた。

あちこちで戦慄迫る大陸でも、比較的中央部は大人しかった。
ストラドリアとエレハイムは未だ帝国の侵略を受けてはいなかったのだ。
表面上は古くからの友好国、しかし内情ではほぼ傘下の属国といっても過言ではないのが両国の関係。
エレハイムはストラドリアを帝国の魔手から護る代償に、人質とストラドリアに深く浸透した伝承の解消を要求した。
それは古き盟約の破棄を意味していた。



そして、それはこの幼い二人の関係も同じである。
弱小国ストラドリアの王子、アシュレイ。
強国エレハイムの王女、ソフィア。
表面上は盟約を通すために人質としてアシュレイはエレハイムにやってきたのだ。

「何でも、ない・・・」

アシュレイは一瞬沈んだ表情を見せると、すぐさまソフィアに対して体を背けた。

「姫様、今日はもうお城に戻りましょう」

「なんで?まだお日様は高いわ。楽しいのはこれからじゃない!」

確かに太陽はまだ中天に差し掛かったばかり。
透き通る青空と同様、この時期には珍しい快晴。
しかし背を向けたアシュレイの表情は泣き出しそうな曇天だった。
アシュレイはやや俯きながら、搾り出すように言った。

「姫様・・・僕は姫様とこうやって遊んでいてはいけない人間なんです。
本当は城外に出ることだって禁じられて、暗い部屋で膝を抱えていなければいけない人間です。
でも、姫様はどうしてこんな僕を構ってくれるの?」

人質という立場。
それを幼いながらも完璧に理解してたアシュレイにとって姫の好意と、態度は眩しすぎた。
離れの尖塔で月明かりを眺めることくらいしか楽しみのない人質という立場に、光を与えてしまった。
その分、闇に戻ったときの割れた光の痛みは計り知れなかった。

「だって・・・わたしたちは友達じゃない。それに、今はこんな関係だけど、あんたとわたしの国は昔からの約束で繋がってるの。
だから、わたしたちも離れちゃいけないの・・・」

突然悲痛な表情を見せたアシュレイに、ソフィアもやや呑まれてしまったように呟いた。長い前髪に隠れてよく見えないが、空の蒼にはややかげりが在る。
アシュレイ同様、ソフィアも立場というものは理解していた。
男の世継ぎに恵まれなかったラメセスは次期後継者に幼いソフィアを指名していた。時が二人を押し流せば、自然に離れる存在となる。
だから、ソフィアは無邪気にもアシュレイを連れまわしていた。
いくら幼い感情といえど、彼に好意を持っていることは間違いなかったからだ。

「あんたがそういう風に思うのは仕方ないと思うの・・・でも・・・」

ソフィアはそこまで喋って口を閉じた。
曇ったように思われた瞳の色に、再び光が差す。

「そうだ、あそこに行きましょう!!あそこに行けば、わたしたちの関係をあんたも理解できるわ!!」

ぱぁっと花が咲いたような笑顔を見せると、ソフィアは沈んだアシュレイを無理矢理引っ張って走り出した。
突然の行動にアシュレイは足を縺れさせながらもなんとか着いていく。
森の奥の湖、二人の秘密の場所を抜けると背丈ほどの草が生い茂る湿原が広がっていた。
昼尚暗いその場所は童心に直感的な恐怖を植えつけるが、アシュレイはソフィアがいれば平気な気がしていた。
アシュレイは自分の腕をぐいぐいと引っ張って先行するソフィアの背中に、姉のような面影を感じ取った。自分のほうが二つ上なのに、少し情けないと思いながら。

  1. 2006/08/31(木) 20:02:32|
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カミソリ

Author:カミソリ
カミソリによるssサイトです。
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主にダークなss、二次創作など。
ヤンデレ、嫉妬、修羅場、鮮血などを愛する方にお勧め。

スウィッチブレイド・ナイフ・・・完結
Pet☆Hot☆High-School!・・・完結
向日葵・・・完結

Pet☆Hot☆High-School!と向日葵についてはまとめサイトの偉大なる管理者でおられる阿修羅様にいただいたタイトルです。

尚、『スウィッチブレイド・ナイフ』『向日葵』につきましては、有難い他者様のプロットを使って書き上げた作品です。
この場を借りてお礼申し上げます。










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